Piggy Bank雑感

さてPiggy Bank.MITのプロジェクトで,Semantic Web Browserを標榜しているらしく,聞き捨てならない.しかも論文が今年のISWC2005*1に通っていて,読んでみるとそのアプローチといい何といい,semblog/glucoseのライバルと思って差し支えない.

Piggy BankはFirefoxプラグインとローカルのHTTPサーバから構成されていて,当然ながら見た目はFirefoxである.ゆえに研究用アプリにありがちな,機能はすごいかもしれないけど日常生活で使えないという問題はない.「セマンティックWebは実はユーザーインターフェイスの問題である」と常々申し上げているので,このアプローチは大賛成.普段はただのブラウザとして利用できて,特定のサイトに来るとPiggy Bankの機能が作動する.で,その特定のサイトとは,RSSFOAFに対応しているものと,JavaScriptで書かれたScraper(HTMLから情報を抽出するためのテンプレート)が存在するものを指す.構造がはっきりしている検索エンジンの検索結果ページとか,Amazonの個々の商品ページのようなものであればScraperは作りやすい.Piggy Bankはそういったページがあると,そこに含まれる情報の1つ1つを(アイテムと呼ぶ)RDFに変換し,独自のビューで表示する.RDFになっているので,プロパティごとに整理したり,検索したり,場合によってはGoogle Mapに乗っけることもできる.こういった情報はユーザーのPC内に保存できるだけではなく,Semantic Bankと呼ばれる共有サービスの上で他人と交換できたりもする.以上.

さてさて,これはすごいことなのだろうか.実のところピンと来ない.使えるサイトはごくごく限られているし,何のために保存したり共有したりするのか,目的が明確でない.情報(アイテム)をページやサイトという構造もしくは制約から自由にする,というのはお題目としてはかっこいいけど,自由になって何がうれしいのだったか,という議論が抜け落ちている.と,文句ばっかり言いたくなるが,これはやっかみ半分で適切な反応ではない.こういった問題はセマンティックWeb全体が抱えているものであり,個々のアプリのレベルで問うても始まらない.で,アプリの完成度はというとこれが驚異的で,要するに普通に使えてしまう.アイテムの保存時などに文字化けする場合があるが,データとしては正しく保存されているようで,日本語でもそこそこ使える.タグつきブックマーク機能などは,過去に入力したタグの補完がきくので普通に便利.これをSemantic Bank経由で共有すれば小規模ながらソーシャルブックマークサービスができたことになる.

印象としては,いまブラウザ側でできることを全部やりましたという感じ.ここから先は,ユーザーが増えることによる副次的効果(はてなブックマーク人気エントリーとか)をどう取り込んでおもしろい見せ方ができるかがポイントになりそう.もちろんそれをするための技術的基盤はほとんどそろってしまっているので,ここからの展開は加速していきそう.正直なところ,glucoseがやりたいことの一部はすでに実現されてしまっているので,非常に悔しい.このままぼんやりしていると論文も書けなくなってしまうので,手持ちの札の優先順位を変えていかないとなあと思った次第.

*1:International Semantic Web Conference