ウェブ研究をはじめましょう
うちの研究室にも新4年生が入ってきました。初々しくていい感じです。こちらも新たな気持ちで研究をはじめようと、ウェブの研究をするとはどういうことなのか、彼らへのメッセージを込めて少し考えてみました。
ウェブの研究をするということ
ウェブが身近なものになるにつれ、ウェブを研究対象にしたいという学生さんも多くなってきています。人気があるのはとてもよいことだと思うのですが、こと研究の観点からすると、ウェブは他の対象と比べて事前に考えておかなければならないことが多々あります。
ウェブの何を研究すべきか
ひとくちにウェブ研究といっても、その内実は多種多様です。ウェブを構成しているのはハードウェア、ネットワーク、プロトコル、ソフトウェア、サービス、ユーザー、その組み合わせとしての社会現象まで、数え上げるときりがありません。そのすべてをひとりで研究し尽くすことができない以上、ウェブのどういった要素について研究をしたいのかをまず考える必要があります。
ウェブ研究はサイエンスなのかエンジニアリングなのか
そんなことを問うような時代ではないのかも知れませんが、やはり立場によってアプローチは変わってくるのではないかと思います。ものすごく乱暴に言えば、サイエンスとは自然の中から真理と呼べるような仮説を見出す作業で、エンジニアリングは人の役に立つものを提供する作業です。これをウェブに対応させると、ウェブという社会現象には何らかの本質があり、掘り下げていくことでそれを見つけようというのがサイエンスの立場で、社会現象を生み出すにはどのようなしくみが必要なのかを考えるのがエンジニアリングの立場と言えます。もちろん、研究の時々に応じて立場が入れ替わったり、複合的なアプローチを取ることは十分にあり得ます。
ウェブ研究と社会学
ウェブが「もうひとつの社会」になりつつある現在、ウェブ研究も社会学と大きなつながりを持ちはじめています。これまでの社会学では、いまの社会がどうなっているのかを明らかにするために調査・分析が行われていましたが、ウェブ研究はそれに加えてシステムをつくり、ユーザーを巻き込むことで社会を変える力を持っています。これはすごいことだとは思いますが、当初の研究目的が分析であるのか構築であるのかの境界があいまいになる危険性をはらんでいます。研究者として、目的と手段を混同しないように強く意識する必要があります。
「グーグルにできない理由は何か」
エンジニアリングとしてのウェブ研究のライバルは、他の研究者だけではありません。ウェブを舞台にビジネスをしている企業すべてがライバルと言っても過言ではありません。とくに、グーグルを筆頭とするテクノロジー企業の動向には目が離せません。フォーサイト2007年4月号の梅田望夫さんのコラム「シリコンバレーからの手紙」では、「グーグルは大規模なデータベースとマシンパワーを武器にして、科学者が持つ『シンプルかつエレガントに原理を解明したい』というロマンティックな研究姿勢に対して重大な問題提起をしている」といった論考がなされています。彼らが何十、何百、何千人の規模で研究開発を進めている一方で、自分たちが比較的少ない人数で研究をする意味は何なのか、自分の研究がグーグルにできない理由は何かということは、答が出ないかも知れませんが、常に考え続ける必要があると思います。
結局のところ、ウェブを研究するということは、以上の問いを自分に対して繰り返し向けていくことなのかもしれません。そして、ものの見方を変え、誰も気づいていないような視点を見つけ出し、小さな力で大きな結果を出せるのがウェブ研究の醍醐味です。一緒にがんばっていきましょう。
ウェブ研究スターターキット
ウェブ研究は新しい分野なので、研究をはじめるうえでの必読書というようなものはとくにありません。もちろん、論文をたくさん読む必要はあります。ただ、論文は個別具体的な研究について書かれたものですから、それだけでは十分ではありません。大局的なものの見方を提供してくれるような本にあたって、そこを起点にテーマを考えるのがよいと思います。また、他分野の良書を積極的に読みましょう。多くのヒントが得られると思います。
ウェブの基本
現在のウェブを知るためにも、とりあえず全部読むといいと思います。
Webの創成 ― World Wide Webはいかにして生まれどこに向かうのか
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